静かに波打つ大海原
所々に小さな小島があり、その中の一つにこの家はある
決して大きくは無いけれど、四方を海に囲まれた中でこの家はかなりの存在感を醸し出す。

かなり沖にあるので、知人意外はあまり尋ねてくる筈も無くゆっくりとした時間が流れる
この場所に旧友達は集まり、笑いあったり喧嘩したり...結束しあった
「カメハウス」
この家は幼き頃より兄弟のように成長してきた二人の武道家の思い出の場所でもある
その片割れは先日のセルゲームで還らぬ人となってしまったけれど



朝日が海を照らし出す頃、彼は目覚めた
成人にしては小さな身長、悟飯の兄貴分でもある彼はまだ寝ぼけ眼のまま室外に出た
眩しいほどの太陽が彼を照らし、思わず目を細めてしまう
昇りたての太陽と、静かな波音。

何より親友が最後まで命を掛けて守ってきたこの星
クリリンはこの時間がとても好きだった


いつも通りの朝
思い切り空気を吸い込み、彼は「よし」と気合を入れると朝のトレーニングに励みだした
もうそろそろ師匠の亀仙人も目を覚ますんだろう

すっかり太陽も高くなった頃、あることに気付いた
地に自分以外の影がある
かなり小さい事から相手は空に居ると思い仰ぎ見れば、丁度太陽を背景にその人物は居た
逆光になってしまっているので顔までは確認が取れなかったが、気付かれた事に気付くと影は下降をはじめた
軽々と地に足を下ろしたその人は、少し風で乱れた髪を直した

神殿でクリリンに「またな」と言い残し去って行った彼女が再び彼の前に姿を見せた
突然のことにただ驚いている彼など全く見ていないかのように彼女は少し離れた場所に落ち着いた

クリリンは「やぁ」と言う事で精一杯だった
それでも彼女は何も答えない
会話はそこで途切れたが、静かに繰り返す波音だけは絶えずそこにある
女性なら誰もが憧れるような整った横顔を彼はただ見つめた

「げ、元気...だったか?」
友に向けるような笑みをつくり改めて聞き返しても結果は同じだった
作った笑いはすぐに崩れ、まるで大人に怒られている子供のような気分だった
彼女は暫らく押し寄せる波をを見つめていたが
「...孫 悟空の事...教えろ」
「?へっ?」
「色々知ってるんだろ?」
やっと口を開いた彼女の第一声だった
全く感情の無いような口調で

「抹殺の対象だった奴だ」
「......」

悟空はもうこの世には居ないというのに....
と言おうとして止めた。
その代わり、悟空の事ならいくらでも話せる気がしていた
子供の時から一緒だった大切な親友
もしあの時、悟空に会わなかったら今の自分は居なかった気がしていたから

だから彼女も悟空という人物を知ってもらって、仲間の輪に入ってくれたらどんなに良いか...
いつまでも悲しい目的を背負う彼女や、もう一人の為にも何かしてやりたかった

クリリンは悟空の子供の頃や、サイヤ人戦、フリーザ達との激闘も思い出せる事すべてを話した
もちろんその中で、自分に二度の死があった事も
ナメック星での悟空は、確かに最強になったけれどクリリンは少し悲しかった
まるで自分で自分を傷付けている様な...そんな気がして

18号はクリリンが話している間も視線を合わすことなくずっと遠くの海を見ていた

自分の瞳と同じ色をしたこの海
改造される前の自分が誰だったか...なんて、そんな事はもう覚えていないけれど、こういう場所は好きだった様なそんな気がしていた。
『孫 悟空』の事なんて本当はどうでも良かった
ただこの不思議な感情にさせる奴にもう一度会いに来たという事だけ
敵であるにも関わらず、唯一彼女の安否を気遣った。


「18号?」

どうやら話し終わっても何も反応しない彼女を心配しているようだ。
クリリンの話は波の音と同化してまるでラジオのようにしか耳に入ってこなかったけれど...
彼女は返事の変わりに髪を耳に掛け直した


一通り悟空のことも伝えた事で彼は満面の笑みを浮かべた
「なっ?結構良い奴だろ?」

どうやら悟空のことを言っているんだろうが、全く聞いていなかったのだから分かる筈もない
聞いていたとしても多分、感情の変化など出来なかっただろうけど

「...ばーか」

少し呆れたような口調だった
それから波を眺めていた目線をクリリンにようやく向けた
皆は「冷たい」だの「心の無い機械人形」と言っていたけれど、彼はこの地球と同じ色の瞳をもつ彼女の瞳はとても綺麗だと思った。
まっすぐと見つめられてクリリンは少し緊張に似た気持ちになる
でもそれは一瞬の事で、彼女はすぐ背を向け少し宙に浮かんだ

「...そういうのお人よしって言うんだよ」

言い終わる前に彼女は遥か上空にいた
再び太陽を背に彼女の姿
彼女の金髪が太陽の光で神秘的な光を見せている
思わず、上空にいる彼女の名を呼んだ
そして

「また来いよ〜!!」

地を振り返れば、彼が面々の笑みででを振っている
返事を返すことなく彼女の姿は青空の中に消えていった

青空の中を一筋の光のように飛び続ける彼女の表情には、彼の前では決して見せる事の無かった少しの笑みが浮かんでいた



突然の訪問客を見送った彼にも、同じように笑顔があった
空を見れば高い青空
何故か、この空と同じ名前の親友がそこで笑っているような気がして




家の中から彼の名を呼ぶ声が聞こえて、クリリンは家に戻っていった


今日も、地球は平和な一日になりそうだ






END
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